方言周圏論とは、日本の民俗学者柳田國男によって1930年に提唱された理論で、方言の特定の要素が、文化的中心地から放射状、すなわち同心円の形で分布している場合、その要素は中心地から周辺に向かって伝播したと解釈するものです。
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方言周圏論とは
この理論は、内側に位置する方言が新しく、外側に位置する方言が古いと解釈される考え方に基づいています。
柳田は、日本語の「蝸牛」に関する方言の分布に注目しました。
彼の発見によれば、同じ方言が近畿地方を中心に同心円状に分布しており、近畿地方での呼び名が「デデムシ」、中部や中国地方では「マイマイ」、関東や四国では「カタツムリ」、東北や九州の一部では「ツブリ」、そして東北の北部や九州の西部では「ナメクジ」となっています。
彼はこれを基に、かつての文化的中心地である京都から各方向に方言が放射状に拡がったと推定しました。
また、ある地域、特に文化の中心地で生まれた言葉や風習は、その周辺地域に広がるとともに、中心部では新しい言葉や風習が生まれる一方、周辺部では古いものが残り続ける傾向があるとされます。
例として、京都から遠く離れた東北や九州・沖縄には「トンボ」を「アキズ」と呼ぶ古い方言が存在することが挙げられます。
日本は南北に長い国土を持っており、文化や言葉の影響は主に東西に広がる特徴があります。
そして、都がかつての京都から江戸に移ったことで、中部地方には古い言葉が多く残るという現象も見られます。
加えて、方言の伝播は陸地だけでなく、海を介した交流、例えば佐渡ヶ島の方言が能登半島との航路によって形成されたように、人々の交流や交通手段によっても影響を受けています。
この理論に基づく考え方は、言語地理学の「地区連続の原則」と「辺境残存の原則」に支えられています。
前者は特定の方言の分布が現在分断されている場合でも、過去には連続していたとする原則。
後者は新しい語や表現が文化的中心地で生まれた後、中心から遠く離れた地域には古い語や表現が残りやすいとする考え方です。
ただし、方言周圏論には一定の批判も存在し、全国規模で同心円状の分布を示す方言が少ないという点や、方言が飛び地的に伝播する場合もあることが指摘されています。
最後に、日本のメディアや研究においても、この理論の考察や応用が行われています。国立国語研究所の「日本言語地図」に基づく調査によれば、「とんぼ」や「地震」といった語の周圏分布の特徴も確認されています。
方言周圏論について表で簡単にわかりやすく解説
ポイント | 詳細 |
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定義 | 方言の特定の要素が、文化的中心地から放射状に広がる理論 |
提唱者 | 柳田国男 |
提唱の背景 | 「蝸牛」に関する方言の分布 |
具体例 | 「トンボ」は「アキズ」と呼ぶ古い方言が、京都から遠くの東北や九州・沖縄に存在 |
方言の広がり |
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言語地理学の原則 |
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課題 |
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柳田の意図 | 日本の文化や言語の変遷を理解する基本原理 |
メディアでの紹介 | 『探偵!ナイトスクープ』で「馬鹿」や「阿呆」の方言分布の紹介 |
調査例 | 国立国語研究所の「日本言語地図」で「とんぼ」や「地震」の周圏分布 |
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